吹禅の尺八

 法燈国師は尺八をもって座禅一助の便法、禅定悟得の妙法とした指導理念で「吹簫禅すいしょうぜん」すなわち「吹禅すいぜん」を確立されました。後世この禅尺八が明暗尺八と云われるようになりました。

 明暗尺八は西洋音楽と云われる概念とは全く音の扱い方や次元を異にしています。一般に西洋音楽は一符一音で、その音の積み重ねで一曲が成立していますが、明暗尺八では呼吸が基本となり、一音はくさび吹きでの一呼一音と云うことで、一呼吸のなかで音が変化して一音を形成しているということです。つまり、禅道修業における数息観に準じた呼吸法で渾身の生気で一管に息を吹き込み、楔吹きの余韻のうちに「ツーレーウー 無韻の韻」という変化曲節で一音が完結するという事です。一曲はその一呼一音の積み重ねと云うことになります。

 また吹管は楽器としてではなく法器として扱われ、極力手を加えない竹本来の音味ねあじを尊重した「地なし一尺八寸管」を正寸としています。「吹禅」では吹奏技術とか奏法とかは勿論必要ではありますが、「本曲」と云う言葉が尺八の為の曲を意味するものであると同時に「本人曲」とも云われる様に、更に深い意味で、本当の自己、真実の自己に目覚める為の、禅で云う「見性成仏」の為の修禅の方便であると云えます。

 古の普化宗授与の本則には
「夫尺八者法器一也、謂尺八大数也。取三節之中定上下之長短、各有所表。三節三才也、上下之三竅者日月也、表裏之五竅五行也、是万物之深源也、吹之則万物与我融冥、而心境之一如也」
とあり法器としての尺八を吹けば座禅と同じ様に身心脱落して万物と一如となると述べています。

地なし古管尺八の系譜

地なし古管尺八の系譜

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