現代の虚無僧について

1.明治以前の虚無僧と現代の虚無僧

現在の吹禅行化証(裏面に住所・氏名明記)現在の吹禅行化証
(裏面に住所・氏名明記)

 尺八を吹いて托鉢行脚する禅的生活の最初の実践者は、虚竹禅師であり、また、虚無僧の元祖は楠木正勝公と伝えられています。時代は下って、江戸時代には、幕府により普化宗が公認され虚無僧の全盛期を迎えます。当時の入宗制度はかなり厳格で、虚無僧になるのは武士に限られ、厳重な身元調査の上、確実な武家の保証人を要しました。さらに、一定の入宗金を納め,祖師の霊前で誓約の儀式を経て、はじめて三具三印を授与されて虚無僧となりました。

 三具とは尺八・天蓋・袈裟であり、三印とは本則・会印・通印の三種の証明書です。寺での生活は、夜明け前に役僧が吹く「覚醒鈴」の曲を合図に起床、仏殿に集まって朝の勤行として「朝課」の曲を奏し、そのあと朝の座禅をします。日中は尺八稽古・武道修練・托鉢などで過ごし、夕方には「晩課」の曲で勤行をし、夜の座禅を行います。夜半の修法もあり、これとは別に、各人毎月三日間は托鉢に出なければなりませんでした。虚無僧の吹く曲はすべて禅の修行、つまり吹禅の曲と考えられていました。

 1871(明治4)年10月、太政官布告により普化宗は廃止されます。しかし、1881(明治14)年の東福寺火災の後、「本堂再建の為の全国大勧進」の手段として、1890(明治23)年に明暗教会が設立され虚無僧風儀が復活しました。さらに1959(昭和25)年に旧普化宗は宗教法人普化正宗明暗寺として再興され、募金の為だけであった明暗教会の虚無僧は明暗寺の復興により、晴れて掛籍を得ることが出来、本来の行化ぎょうけ修行を目的とする団体に生まれ変わりました。
 行化とは仏教用語で、修行と教化のこと、または修行を終えて教化のために巡り歩くことを言います。さらに教化も善行により人々を安寧に導くという、仏教に由来する概念です。

 普化宗から普化正宗と名称は変わりましたが、その思想・信条・哲学が変わったわけではなく、旧普化宗が復活したと考えて差し支えありません。これは、尺八各流家元の明暗寺復興への強い要望と総意により実現したものです。復興までの関係者や先達の苦労を考えれば、現代の真の虚無僧を自認する者は、行化の意義を正しく理解し、禅の学徒であることを自覚し、生活も正していくことが大切です。
姿形だけの虚無僧、見せかけの虚無僧ではなく、行化(現代では主に托鉢)を通じて、精神を受け継いでいく虚無僧であればこそ、そこに様々な決まり事があります。それが虚無僧風儀なのです。

2.明暗寺虚無僧の心得

吹禅行化誓願文吹禅行化誓願文

普化正宗明暗寺に籍を置く虚無僧は、「吹禅行化誓願文すいぜんぎょうけせいがんもん」(右図 喜捨を受けた時、返礼として手渡すお札。行化の目的を明示。)に、次のようにあらわされています。

一吹為断一切悪いっすいいだんいっさいあく 二吹為修一切善にすいいしゅいっさいぜん 三吹為度諸衆生さんすいいどしょしゅうじょう 皆共成仏道かいぐじょうぶつどう※2

このことを心に秘め、修行者としての自覚を持って己の行動を律し、行化(托鉢)の実践を積み重ね、体験を通して虚無僧の現代的意義を知ることが大切です。簡単に言うと、修行者としての礼儀作法を守り、人々の顰蹙ひんしゅくを買うことのないように心掛けることです。

※2 一つには悪いことを成さず、二つには善き事を成し、三つには全ての人を菩薩に成るが為に吹す。皆共に仏の道に入り菩薩に成ります様と誓願する。

3.現代の虚無僧風儀

それでは次に、現代に伝わる虚無僧風儀を紹介しましょう。

行化(托鉢)の道中について

  1. 行化中は天蓋を脱いではならない(但し、室内休息を除く)。
  2. 道中、衣服は腰上げを取り、手甲・脚絆・草鞋履(or地下足袋)とする。(写真右上)
    寺院の行事やイベントに着流しで参加する場合は、手甲・脚絆は着用せず、履物は草履とする。
  3. 尺八は左手の親指で歌口を覆って握り、管尻を稍上に体に沿うようにして脇下に持つ。
  4. 朱扇は偈箱(頭陀袋)に握り部を上にして納め、偈箱の紐は袈裟の二重帯の中へ通して首に掛ける。(写真右下)
  5. 二人以上の場合は整然と隊列を組んで歩行する。歩行時の会話は厳に慎む。(写真左)
  6. 寺門を潜れば、尺八を右手に持ち替え、天蓋を脱ぎ左肩前に捧持する。
  7. 日没以後の行化行は厳禁。天蓋・偈箱・袈裟を取り外し平服に戻る。
  • 2012年 湊川神社・虚無僧練り虚無僧お練り
  • 草鞋・地下足袋草鞋・地下足袋
  • 偈箱・頭陀袋の紐偈箱・頭陀袋の紐

門付について

  1. 隊列を解き尺八を右手に持ち替える。
  2. 門付曲を献ずる場合、各家の庇ぐらいまでの位置を限度として、それ以上は家主の許可を無くしてみだりに侵入してはならない。
  3. お布施が喜捨された場合、朱扇を半開きにして受け偈箱に移す(or両手で尺八を頭陀袋の垂れに添えて受け取り袋に収める)。鉢返曲(or門付曲の続き)を献じた後、尺八を両手で目の高さ位まで捧げ礼をする。布施主の状況によっては、曲を最後まで献奏せずに早めに切り上げたほうが良い場合がある。
  • お布施の受け方1お布施の受け方1
  • お布施の受け方2お布施の受け方2

寺院等で献奏する場合について

  1. 天蓋を捧持し玄関で、所属寺院(明暗寺の虚無僧誰某)と来訪の趣旨(本堂での献笛願い)を告げる。許しがあれば、手甲・脚絆を外す。履物は脚絆を挟み込むようにして重ね、下足箱に収める。足裏の汚れを拭い、衣服の腰上げを外し整える。寺院以外でも屋内に入る場合は同様の配慮が必要。
  2. 天蓋・偈箱等を携え献奏場所まで案内に従う。献奏場所に端座し、天蓋は座席左前に置き、尺八は朱扇を枕にして前に置く。他の携帯品は座席左横に置く。
  3. 軽く合掌した後、灯明・線香を上げる(寺院側で用意してくださる場合もある)。
  4. 献笛する前に姿勢・呼吸を整え精神統一を図り、献奏に移る。
  5. 献奏後、灯明を消し、お礼の口上を述べ辞す。
  6. 本堂・食堂・浴頭・東司(便所)では私語・談笑を慎む。東司に行くときは袈裟・数珠等を外すことを忘れないようにする。
  • 履物の処理履物の処理

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